前回に引き続き、6/19(金)に長野市芸術館で開催されたランチタイム・ピアノ・コンサートについてレポートいたします。
こちらの後編では、長野市芸術館ランチタイム・ピアノ・コンサートの運営責任者、長谷川綾さんに後日オンラインで伺ったお話をインタビュー記事としてレポートいたします。コロナによる劇場への影響や今回の6/19(金)の公演において苦労された点などをお聞きしました。(インタビュアー:イベントナガノ 芝)

芝:新型コロナウイルスによる公演自粛から劇場再開までの状況について教えてください。
長谷川さん(以下敬称略):まず長野市芸術館の主催事業としては、2月は毎週のように事業があり、コロナが流行するまでは順調に進んでいました。しかし、2月最後の2/29(土)の主催公演が目前にして中止となり、それを皮切りに昨年度内の公演も4月からの今年度の公演も全て中止および延期となりました。
貸館公演も次々と中止や延期となり、さらに出演者・主催者・スタッフの皆さんの健康と安全を配慮した結果、4/15(水)から5月末までやむを得ず休館とし、完全に機能がストップしてしまいました。
私たち劇場スタッフもチケットの払い戻し対応などで必要な最低人数のみの出勤として、可能なスタッフはリモート勤務。ようやく6/1(月)に休館が解けて再始動に至りました。
芝:では6月に入ってから急速に動き始めたということでしょうか?
長谷川:休館中も、私たちがハブとなってお客様とアーティストを繋ぐ何かができないかと考え、「おうちで芸術館」というプロジェクトを立ち上げ、オンラインでできるコンテンツも作りました。
ただ実際のコンサートについては、いつから再開できるのか分かりませんでしたし、政府の指針が出ないことにはチケットを売り出し始めている公演をどのように変更・修正していかなければならないのか、また新たにチケットを発売する公演も客席数をどうすればいいのか判断がつかなかったため、ギリギリまでチケット発売を延期して調整していました。
そこで、劇場機能が再開してすぐに開催できるのは当初予定していた無料のコンサートでした。有料の公演はチケットを売らなければならず、開催まで時間がかかってしまうので。
昨年から好評をいただいている入場無料のランチタイム・ピアノ・コンサート(以下ランチタイムコンサート)は今年度年間を通しての主催事業として、4月から月1回開催しようとしていました。残念ながら4月と5月は開催に至りませんでしたが、緊急事態宣言の解除に伴い、まずは私たち劇場スタッフが劇場を動かすことをやってみようということで、6月は開催を決めました。

芝:今回6/19(金)に開催されたランチタイムコンサートの必要備品の調達も大変だったそうですね。座席カバーも前日の納品だったと聞きました。オペレーションの判断も難しかったと思います。
長谷川:何が正解が分からない中、これは感染予防対策として有効だろうと思えることをスタッフ総出で考えて片っ端から実施しました。
芝:私も当日運営を見させていただきましたが、今回の対応以上にできることはほとんど無いと思うほどに念には念をという印象でした。
密を避ける定義が人と人との間隔を1m空けるということですが、それで本当にいいのか不安に思う部分もありますよね。今回、客席内は3席飛ばしでしたね。
長谷川:偶然にも6/19(金)の公演日に自粛要請が全面解除となったため、収容人数の半分までお客様を入れることができるようになっていました。つまりメインホールは650人弱のお客様を入れることが許されていました。
しかし、まずは全体の15%、200人を上限にし、お客様やスタッフがどのような動きになるかをテストしてみました。今回はモデルケースですね。無料公演がゆえに難しいこともありましたが、私たちも実験させていただきました。
芝:急に大きな公演を開催するのは難しいですものね。全ての会館や主催者様に共通することだと思いますが、前例がないと難しいですからね。
長谷川:実際やってみることで、蓄積していくものもありますし、変えていけることは変えていく。そしてそれを主催者様にフィードバック・ご提案するということをしなければと思い、今回テストを兼ねて実施してみました。
芝:我々イベント運営サイド側としてもありがたいです。当日のシミュレーションも念入りになさったそうで。
長谷川:はい、前週の金曜にリハーサルをしました。市の職員の方々が7~8人お客様役として来てくださって、入場から客席に着くまでの流れをシミュレーションをしました。
芝:その際に問題点や改善点は出てきましたか?
長谷川:リハーサル実施前に、まず私たちが初めて導入したサーモカメラに慣れることから始めました。6月に入ってから導入されたのですが、会館事務所に出入りする方も不特定多数いるため、まずはそちらに設置していました。
サーモカメラは20人同時に体温が検知・表示できるようにはなっているようなのですが、カメラ前を素早く重なって通ってしまうとその人を検知しないということが分かりました。そのため、公演当日は一人ずつゆっくり通っていただくよう声をかけていました。
公演当日は画面はお客様には見せず、スタッフがパソコン上でチェックしていました。サイネージの画面に映し出すこともできるため、それを実施してみようかとも思いましたが、そこでお客様に歩みを止められてしまうのも密になるので今回はスタッフだけが見られるようにしました。
ただ、お客様本人にも見られるように画面を映し出したほうが良かったかもしれません。そうすると自分を意識してもらえるので、素早く通らずに自然にゆっくりと入場していただけたかなと。
芝:お客様を実際に入れてみないと分からないことも多かったのですね。
長谷川:そうですね。1週間前のリハーサルでは、少人数なので気づかなかったのですが、当日お客様が数珠繋ぎでいらしてしまうと、そのような問題が出てくることが分かりました。今後の修正点ですね。

芝:私が見た限りではソーシャルディスタンスを守ってくださっている方が多いかなと思いましたが、それでも人数が増えると難しいのですね。
長谷川:今回200人という制限がなければ整理券は配らなかったと思います。来月のランチタイムコンサートでは整理券方式を実施しないと思います。午前10時に整理券を配ると告知していたので並んでしまうだろうと思っていましたが、案の定結構な人数のお客様が集まってしまいました。
日本人って礼儀正しいので列を作ろうとしちゃうんですよね。列を作ろうと自然と動いてしまうので、開場時もそうですが、「列を作らずゆっくり来てください」というのが難しかった。ハンドリングが難しかったのがその部分ですね。
芝:ハンドリングが難しかったとのことですが、スタッフの案内に従ってくださるように見受けられました。お客様は協力的でしたか?
長谷川:協力的でした。分散してくださったり、こちらが意図していることを見て察知してくださって。
芝:他のイベント視察でも感じましたが、お客様がすごく協力的ですよね。どちらかというと、お客様がイベントを楽しみにしてくださっていたということもあり、限られたルールの中でお客様も楽しんでいただけているような。
長谷川:そうですね。待ってましたと言わんばかりに、常連さんのほとんどは今回の公演に顔を出してくださいました。それでも意外に初めましての方も多くて。ランチタイムコンサートは、<出入り自由・入場無料・1曲だけでもランチ後に寄ってね>というのが趣旨なので、出入りが多いものになるかと思っていましたが、一度入ったら最後まで聞いてくださった方がほとんどでした。
本当に音楽を聴くために来てくださったようで、集中力が客席にもありましたね。お客様がものすごく待ち望んでくださったのだなと。「生の音はやっぱりいいわ」とおっしゃってくれるお客様が多かったですね。それから、「頑張ってるね」と顔馴染みの方は応援してくださったりもして、とてもいい空間でした。
芝:やはり生の公演はいいですよね。私たちもチケットの払い戻し対応をしているとそれを実感します。お客様からの声が届くとモチベーションアップにもなりますよね。
長谷川:4ヵ月ぶりなのでどれだけ待っていてくださっていたのかと。特に常連の方はテンション高かったです(笑)。

芝:他の主催者の皆さんへのアドバイスなどはありますか?
長谷川:何が正解か分からず、まずは知恵を絞ってやってみたためアドバイスというほどではありませんが、私たちが先駆けだったこともあり、県内県外問わずホール関係者が見学にいらしていました。納得して帰っていかれたので、私たちの方法はあながち間違っていなかったのかなと思えました。
西村経済再生担当大臣が50%規制を指針を見直す(6/12 NHKニュース、6/18 Yahooニュース)とありました。夏以降もプロモーターや主催者が借りてくださっていて公演をしようと思っていたのにできない状況です。
芝:そうですよね。主催者としてはどこまで公演を延期したらどこまで(半数以上の)座席を売れるのか分からないため、主催者(プロモーター)は判断や実行が難しいですよね。
長谷川:チケットの発売自体を様子を見ている主催者も多いと思います。どうなるか分からないので。販売や運営のガイドラインが変わってくれば状況が変わってくるかと思いますが。ただ、今は自由席公演を実施するのはハードルが高いです。200人以上となるとハンドリングが難しくて指定席にせざるを得ないように感じます。
芝:なかなか人海戦術ができる状況でもないですしね。そんな中で色々と参考になる部分がありました。お客様との接触を避ける、密にならないなど。言葉を発するのも今はあまり好まれないですしね。
長谷川:そうです。当日はいつもの調子でお客様への誘導の声が多くなってしまったり。しゃべりたくなっちゃうんですけど、それは控えようと。
芝:お手洗いの誘導もあえてスタッフを外していましたね。
長谷川:はい、自主性にお任せしていました。
芝:でもそれができる県民性でもあると思います。

芝:今後公演を開催していくにあたっての課題は見つかりましたか?
長谷川:私たちはどうしてもお客様へ目が行きがちなのですが、実は舞台側・裏側にも目を向けなければならなくて。出演者が多ければ多いほど密になる可能性が高いんですよね。演者やスタッフが多ければその分楽屋も密になります。
今回は出演者が少なかったので、そちらの裏側については実践できませんでした。今回も検温をしたり出演者に体調を尋ねることはしましたが、大勢いる場合の感染予防対策のシミュレーションができていないので、そちらのほうが密になりやすいので心配ですね。
芝:そうですね。大きな公演やプロモーターへの貸館公演だと演者や運営スタッフも多くなりますしね。
次の大きな公演は8/29(土)の音楽の絵本でしょうか。その時の課題になりそうですね。
長谷川:そうですね。音楽の絵本は出演者が多いですからね。
それから、終演後に子どもたちと動物たちとのふれあいが毎年恒例の名物なのですが、それが今回はできないので、それに代わる何か、ふれあいに近いコミュニケーションをどうとるかを話し合っています。
芝:どうなるのかそれは乞うご期待ですね!できることが限られているからこそ、考えられることもあると思いますし。
長谷川:今まで考えもしなかったことを考えていますね(笑)

芝:次回からのランチタイムコンサートは入場者数を増やしていく予定ですか?
長谷川:次回のランチタイムコンサートは7/10(金)ですが、今回大きな事故などがなかったので、少しずつ修正しながら、もう少し多くの方にいらしていただけるようにしたいと思っています。
芝:8月以降の方針は決まっていますか?
長谷川:今のところガイドラインに従ってキャパシティ(席数)の半分です。メインホールだと約650席、アクトスペースだと100席ちょっとですね。
8/29(土)の音楽の絵本は1席飛ばしで、まずは1階席だけ販売しています。
芝:今の時期、なかなかチケットが動かないように思いますが、6/20(土)に販売開始をして売れ行きはいかがですか?
長谷川:ありがたいことに動いていますね。
芝:やはり6/19(金)にコンサートを開催した実績があるからでしょうか。
長谷川:「音楽の絵本」公演は毎年恒例で常連の方もいるということもあると思います。
それから、8/9(日)の上條頌 Live in Naganoはほぼ完売です。会場がアクトスペースのため100人ちょっとしか入ることができませんが。
待ってましたということなのか、感染予防対策をして公演をするということを前面に打ち出しているという意味で安心感があるからか、分からないですけどね。
芝:その安心感というのをどういう言葉・対応で表すかがキーワードな気がします。それから、今回のランチタイムコンサートで思いましたが、限られた人しか入れないので贅沢公演ですよね。
長谷川:そうですね、プレミア感はありますよね。
芝:他の主催者さんもそれを打ち出したらいいかもしれないですよね。
他の会館や主催者の皆さんの中でチケット販売が芳しく無く苦しんでいる方も居られると思いますが、何かアドバイスできることはありますか?
長谷川:私の主観でしかないのですが、長野市芸術館はアーティストや市民の皆さんとの距離が近いと思います。それもあり、できる範囲で予防対策をして、なんとか開催しようとしている熱意は伝わっている気はします。
芝:SNS(ツイッターなど)もうまく活用なさっている気がします。上手な情報発信が大事ですよね。

芝:お客様に知ってもらいたいことはありますか?
長谷川:公共のホールは税金を使って事業を行っていますが、コロナ禍でそれがいいことなのか賛否両論あると思います。
私も日々自問自答していますが、芸術が必要なのかどうか、緊急事態でも必要なのかどうかと。それでも人生を豊かにするためにはあっていいものだと思っています。少しでも皆さんの心の余裕ができたならば、皆さんの心が集う場であるために、劇場を常に開けておきたいと私は思っています。安心してお越しいただけるように日々感染予防対策を私たちなりに100%注力しているので、ぜひお越しください。体温を測って(笑)。ですかね。
芝:劇場は皆が笑顔でいられる空間ですよね。Zoomなどのオンラインに慣れてきた部分もありますが、やはり対面、人が集う場所は大事だと思いますし、元気をもらえる場だということを今回の取材で実感しました。
長谷川:芸術や人が集うことは、食べることや寝ることとは違いますが、人間には必要なことだと思っている方が多いと信じています。
芝:まだまだ公演開催のハードルは高いですが、難しいからやらないという判断ではなく、現状出来る範囲・対応で開催を検討・実行していただき、いろんなイベントにいろんな方が集まって楽しいでいただきたいですね。
長野市芸術館の長谷川さん、今回は新型コロナウィルスによる公演自粛が一部解除されてすぐに公演運営という難しいオペレーションでしたが、それに関して詳細に教えていただきありがとうございました。
イベントナガノでは今後も様々なイベント業界の方々にお話を伺い、現状や問題点の共有・ご理解をいただき、イベントが再開されるまで、されてからのバックアップを進めて行きたいと考えております。
インタビュー以外にもイベント関係者に別途質問させていただき、回答をイベントナガノ・レポートにて公開いたします。また、こういう業種の方の状況を知りたい・聞きたいというリクエストも受付しています。ご質問・リクエストはイベントナガノのお問い合わせフォームからお願いいたします