今回は、50年前に松本の地で創設した日本舞踊松風流の二代目家元松風秀紀さんに、教室運営や舞台の現状についてお話をお聞きしました。(インタビュアー:イベントナガノ 芝)

日本舞踊松風流について
二代目家元松風秀紀さん

:本日はよろしくお願いいたします。まず、松風流について簡単に教えていただけますでしょうか。

松風秀紀さん(以下、敬称略)日本舞踊松風流は、古くは花柳流から分派した日本舞踊の一流派で、今年で50年を迎えます。 東京に宗家、松本に家元、その他、仙台・名古屋・小諸にも支部がございます。私は家元の二代目です。 今は、松本市・安曇野市・塩尻市で子ども教室を、大人向けは松本市のこのお稽古場で教室を開いており、二代目を継いでまだ3年目ですが、現在では門下生(生徒さん)が総勢で50人を超えています。

第一回はなぶさの会より「藤娘」

松風:私どもは、「楽しく」「お気軽にどなたさまでも」「良心的で分かりやすく不安のない定額料金体系」で無理なく楽しく日本舞踊の魅力を知っていただきたいをモットーに教室を主宰しています。月謝はリーズナブルなのですが、私どもの教室は家元であるため、踊りはもちろん、舞台化粧・髪結い・衣裳着付け、道具・衣裳の制作、舞台演出など舞台をつくる全ての技術と芸を備えており、高い技術と芸をお伝えしていくことができます。

コロナによる舞台の影響について
松本あめ市より「連獅子」

:年間で何本か舞台があるかと思いますが、新型コロナウィルスによる自粛の影響はどうでしょうか。

松風:今年は宗家が興流して50年の節目の年ということで、11月末に東京の国立劇場で五十周年記念の大きな舞台を控えておりますが、コロナの影響で開催が危うい状況です。

:まだ舞台の延期や中止が決まっているわけではないのですね。

松風:中止が決まっているわけではありませんが、準備が進められていない現状なので、このままだと中止の可能性が高い気がしています。松風流にとっての一大イベントなのでとても残念ではありますが。

松本市公民館活動発表会より「大江戸花暦」

:本番を迎えるには、お稽古をする期間はもちろん必要ですし、その他にも内容構成を考える、宣伝をするなど、やらなければならない準備がたくさんありますからね。

松風:はい。踊りのお稽古だけでも舞台に立つには最低でも半年は期間が必要となります。

:松本市での舞台は延期が決まったとお聞きしましたが。

松風:元々は今年3月に家元教室門下生一同が出演する「第二回はなぶさの会」を予定していたのですが、7月に延期しました。ところが練習ができない状態が続いてしまっていることや、会場の利用条件が厳しく7月の開催も難しいと判断し、10月に再延期することを先日決めたばかりです。

教室運営の現状と今後の対応について
大人教室お稽古の様子

:コロナを受けて、既存の教室のお稽古はどのような状況でしょうか。

松風:子ども教室も大人教室も完全に休止ですね。2月末頃から5月までの3ヵ月程ずっとお休みしている状況です。6月に入ってからも子ども教室については大事をとって完全再開ではなく、一度リモートお稽古をしてみようと思っていますが、こちらの準備が万端ではないですし、生徒さんもどれだけ対応可能なのかも分からないですね。今の状況が続けば、7月から徐々に対面のお稽古を再開していきたいなと考えています。
一方、大人の教室は今は全員マンツーマンお稽古なので、各生徒さんの意思を確認し、希望者には6月以降はマスク着用で換気をした状態で対面稽古をしていきます。

:リモートのお稽古をこれから導入予定ということですが、オンラインお稽古の予行演習はされていますか。

松風:はい。少数のお子さんと試験的にお稽古してみましたが、やはり難しいですね。今後課題は山積みです。(笑)

:オンラインお稽古導入前から、お稽古動画を生徒さんにお送りすることは以前からされているそうですが、それでもリモートのお稽古は難しいと感じていらっしゃるのですね。

松風:はい。振付を覚えてもらうため、動画を送ったりYouTubeにアップすることは以前からしています。
ですが、振付通りに踊ることができればいいというものではなく、振付を覚えたうえで形を直して表現をしていくためにお稽古をしているわけですから、直接踊りを見ていく必要があります。順番を覚えるだけであれば動画を流すだけでいいのですが、そこから先が進めなくなってしまうんですよね。
なので最低でも双方向での発信ができるお稽古体制が必要なため、Zoomを使ってまずは試験的にお稽古してみようと思います。
ただ、私ども含め特殊な技能が必要な習い事は、口で説明しても全くできないことがあります。やはり対面で直接指導したいですね。

:そうですよね。扇子の持ち方や手の角度などを口で言ったり映像を見てもらっても分からないですものね。

松風:そのとおりです。今後のコロナの状況を見てですが、あまり状況が改善されないのであれば、人数と時間の調整、たとえば今まで10人でお稽古していたところを半分の人数でお稽古していくなども対応していこうと思います。

新規生徒募集について
子ども教室お稽古@Mウイング

:今は新規生徒さんの獲得も難しいですよね。

松風:例年、この時期に小学校にチラシを配布して体験会を開いていましたが、今後も開催が難しい可能性がありますよね。なので例年に比べると今年獲得できる新規生徒さんは少ないと思います。

:今後生徒さんの募集にあたって新しく考えていらっしゃることはありますか。

松風:体験会を実施できればそれに越したことはありませんが、形式を変えていく必要があるかもしれないですね。オンラインで紹介動画を流すとか。

:今年は新たに教室を開設予定だと聞きましたが。

松風:はい。今年4月からは新たに長野市と諏訪市で子ども教室が動き出す予定でしたが、この状況下のためまだ始動できていません。たとえ今年が難しくても、気長に少しずつ、お教室を広めていければと思っています。

日本舞踊の魅力
大人教室お稽古の様子

:日本舞踊をご存じない一般の方に伝えたいこと、知ってもらいたいことなどはありますか。

松風:今はコロナで人との触れ合いが難しい状況ですが、そんな中、日本舞踊は家の中で一人でできることです。YouTubeに少し動画をアップしていますが、今後は日本舞踊が初めての方でも簡単に踊れそうなものを作ってアップしていこうと思いますので、ぜひ踊って日本舞踊に触れていただきたいです。
日本舞踊は息の長い、年齢を重ねても踊ることができる数少ない踊りだということも知っていただきたいです。運動不足解消にもなりますしね。

:どれくらいのスペースがあれば踊れるものなのでしょうか。

松風:一般的には半畳と言われています。舞台に立つ人間で、表現できる最低限のスペースは半畳あれば十分。半畳で足らないようであれば、それは演者の実力が足らないということなのだそうです。

:思っているより狭いスペースで大丈夫なのですね。ヨガよりも狭いかも。

松風:体幹を鍛えるにも非常に良いので、ぜひ今度体験してみてください。(笑)

:ではぜひ。(笑)
大人の教室であれば、今の状況でも体験させていただくことはできるのでしょうか。

松風:はい、大人数でなければ大丈夫です。お稽古場の窓を開放するなど対策をした状態で行います。
体験では着物を着るというところからお教えしています。今年は夏祭りや花火大会は軒並み中止で残念ですが、さっと浴衣や着物を着て出歩くこともできるようになりますよ。
踊ってみたい、さらには着物の着付けもできるようになりたいという方にはうってつけの習い事です。

要望と今後の舞台形態について
第一回はなぶさの会より「天津の舞」

:松本市や長野県への要望や、こうであればいいのになと思うことはありますか。

松風:今は屋内でのイベント開催がなかなか難しいです。出演者含めてホールに入れる人数が少ない、またお客様だけでなく出演者もマスクをした状態で舞台に上がらなければならないなど、かなり条件が厳しいです。
それなら、密を避けられる屋外でできればいいのかなと。以前、松本城400年祭で仮設の野外ステージを組んでいたことを覚えています。あのような仮設ステージを組んで期間限定で使えるようにしていただけるとありがたいです。

:そうですね。そうすれば今仕事がなく困っている舞台の裏方さんも活躍できますし、発表の場が設けられなくて困っているという他の団体さんも嬉しいでしょうね。
松本城でなくても、駅前広場やあがたの森などでもいいかもしれませんよね。

あかしろき様新年会@松本館より「末広の舞」

松風:あがたの森もいいですね。講堂を楽屋として使ったり。
今は屋内のステージ型が一般的になってしまったものであっても、元々は屋外で行ってきたものが多いと思います。原点に帰るではないですが、屋外で披露していくことは十分できると思います。

:たとえば同じ日程で、利用制限が厳しい屋内での舞台と、利用制限が緩い屋外での舞台であれば、どちらを取りたいですか。

松風:屋外の方がいいですね。屋内での出演者もマスク着用必須はきついです。日本舞踊は見た目以上にハードなので、マスク着用で踊ると酸欠で倒れる人が出てきかねません。それに、せっかく豪華な着物の衣裳を着て、綺麗に化粧や髪結いをした状態なのに、マスクをしてステージに立つのはもったいないですしね。

:なんでもかんでもイベントを中止するのではなく、屋内でできないなら屋外でやってみるなど、できることからやっていきたいですよね。

松風:これから色々な面でオンラインの方向に舵をきっていき、それでも成り立っていく社会になると思います。ですが、イベントや芸術関係は、観客がいて、生でなければ伝わらないものがたくさんあります。それを絶やさないためにも、できることをやっていきたいですね。

松風秀紀さん、今回は日本舞踊や教室の状況について色々お話しいただきありがとうございました。

イベントナガノでは今後も様々なイベント業界の方々にお話を伺い、現状や問題点の共有・ご理解をいただき、イベントが再開されるまで、されてからのバックアップを進めて行きたいと考えております。
また、今回の松風さんを含めイベント関係者に別途質問させていただき、回答をイベントナガノ・レポートにて公開いたします。また、こういう業種の方の状況を知りたい・聞きたいというリクエストも受付しています。ご質問・リクエストはイベントナガノのお問い合わせフォームからお願いいたします