今回は、松本ぼんぼんやあめ市など、松本市で開催されるイベントの音響でおなじみの嘉納音響照明映像研究所(以下、嘉納研究所と略します)でお話を伺ってきました。
音響・照明などの裏方スタッフとしての現状を代表の嘉納国雄さん、一家を支えるお母さんの嘉納かず江さん、三代目の嘉納雅彦さんの3人にお聞きしました。(インタビュアー:イベントナガノ 芝)

芝:今日はよろしくお願いします。普段、ツールド美ヶ原やまつもと子どもたちの映画祭などでいつもご一緒し、家族ぐるみのお付き合いをさせていただいておりますが、改めて嘉納研究所についてお聞かせ願えますか?
嘉納国雄さん(以下、敬称略):嘉納研究所の創業は昭和13年です。私の父がはじめました。
芝:戦前ですか!すぐに創業◯年か出てきません!!ちなみに何故「研究所」なんですか?
嘉納雅彦さん(以下、敬称略):嘉納研究所では最初は自らマイク・スピーカーなどを作成し、まさに研究をしていました。日本初の宣伝カーも祖父が作成しました。ま、最初は「自転車」なんですが。
芝:日本初…すごいですね。松本で音響と言えば嘉納さん!と言われる所以ですね。毎年夏になれば松本駅前や薄川沿いで音響の配線を引き回しているイメージがあります。

芝:イベントの裏方スタッフとしての現状を教えていただけますか?
嘉納雅:4月は9割減、5月はほぼ無くて機材や倉庫のメンテナンスなどをしました。
例年だと誰にどの現場(イベント)に行ってもらうか頭を悩ませるくらいなのに、人を回す必要がない状況です。
嘉納かず江(以下、敬称略):今はまだそれほどでもありませんが。7月~10月は例年は忙しいのが今年はほぼイベントが無くなりました。8月まではほぼなく、9月・10月のイベントも中止がチラホラと出てきています。
芝:9月・10月のイベントは「中止」ではなく、規模を縮小してでも「開催」してほしいものですね。
嘉納国:ただイベントを開催するとしたら、今までとは違うオペレーションをする(参加者の名前・連絡先を控える、何かあったら連絡できるようにするetc)必要があり、無料のイベントを行うのは不特定多数が多くて難しいかな。
芝:我々裏方は主催者の意向に沿って仕事をせざるを得ないので、我々でどうにか出来る範疇でないのが難しいですね。
嘉納か:旅館だと助成金やキャッシュバック(長野県民限定で1万円以上の宿泊で5000円返金)等があるが、イベント業にはなかなか無いですよね。
芝:主催者向けに払い戻しした分を控除やお客様向けに払い戻ししなかった分を寄付にできるなど全く無いわけではありませんが、主催者側も厳しいところがあり、裏方の協力会社にそのお金が降りてくることはほとんどないですよね。
嘉納雅:下請けになればなるほどもらえないよね。

芝:私が代表を務めるイベント運営会社(有限会社リッジシステム)では、持続化給付金や手伝ってくれている学生を休業させているため雇用調整助成金の活用を進めていますが、嘉納研究所では何か活用していることはありますか?
嘉納雅:法人化しているとそれがあるんだよね?
嘉納か:でも社長分しか出なくて…
芝:そもそも論ですが、嘉納研究所は会社ではないんですか?
嘉納雅・嘉納か:個人事業主なのよ。オヤジの。
芝:みなさん、従業員ではないんですか?
嘉納雅:個人事業主の中の従業員。従業員ではあるけども全員国保なんです。
芝:それなら全員フリーランスとして持続化給付金の申請すれば…
嘉納雅:でも今まで個人事業主としての実績はオヤジしかないから…。
嘉納国:ここに金が集まって分配する方式なんだよね。
嘉納雅:僕の場合(音楽活動もある)は個人事業主にしておけばよかったんだろうけど、音楽家の方は毎年売上が変わるので難しくて。
芝:売上に変動があるのは弊社でもそうです。毎年同じ人が同じ時期にコンサートしてくれるわけではないのでバラツキは当然出ます。ただ、平均すると毎年このくらいという実績なので、それと変わらないように思いますが。
嘉納か:音喜楽(おきらく)ボーイズでは源泉払ってるんだよね?
※「音喜楽(おきらく)ボーイズ」は雅彦さん(チェロ)と近藤聡さん(ヴァイオリン)の音楽ユニットです。
嘉納雅:ええ、勝手に10%引かれた源泉徴収票山程ありますよ。ただ、確定申告する時は「その他の収入」に全部入れちゃってます。事業…礼金・謝礼・公演料だもんね。
芝:持続化給付金の支給要件が拡大していることはご存じですか?
フリーランスと呼ばれる方々も対象となっているため、白色の確定申告か納税通知書があれば売上台帳は手書きでも受付してくれるそうですよ。
現在、WEB申請だけでなく商工会議所などで開催されている申請サポート会場では対面受付もしていますので、問い合わせしてみてはいかがでしょうか?
嘉納雅:それは是非試してみます。

嘉納か:これがいつまで続くかが問題ですね。
芝:私は10月・11月くらいまでは続くかな…と思ってます。
嘉納雅:ひょんな所から仕事が舞い込むこともあるけどね。
芝:今、雅彦さんは木曽町の田ぐちさんで住み込みのアルバイトをされているそうですが、その経緯を教えてもらっていいですか?
嘉納雅:私が田ぐちの社長と音楽を通じて繋がった友達なんですよ。この時期は田ぐちさんの「朴葉(ほうば)巻」の時期で朴葉の収穫が大忙しなのですが、収穫の手の高齢化・担い手不足が深刻でした。そこで体が空いた私に声をかけていただいた…という次第です。
私も仕事があればありがたい、田ぐちさんも収穫の担い手がいればありがたい、win-winということです。
芝:今すぐに思いつくものが無くても「ウチはコレが出来ます」「こういうの得意です」「体空いてます」「何でもやります」というアピールは必要ですよね。私がいつもお伺いするとお茶請けやらお土産にお母さんの手料理をいただきますが、それを有効利用するとか
嘉納雅:あと勉強をする時間がいっぱいあるしね。
嘉納か:私、調理師の免許取ろうと思ったけど学校やってなくて…
芝:であれば、免許を持っている人と一緒にやるというのも手かもしれません。何か本業以外の得意技で少しでも稼ぎたいですよね。
嘉納か:あとは、私が作ってる籠が売れるんじゃないかな…って言われました。それと、野菜は売れるかな…と。加工したものは保健所が厳しいけど、野菜は大丈夫だって。あと、密を避ける・衛生面から料理教室などの開催が現状難しいです。
芝:急にネット通販やったからって一気に売れるものでもないですが、人脈で売ることも可能ですよね。今回、雅彦さんは、「田ぐち」さんの朴葉巻をかなり売ったんですよね!
嘉納雅:そう。Facebookだけで200個ほど持ってきて完売。ただ、販売価格そのままでお分けしてるので利益を出しているわけではないです。それでも、友人に田ぐちの味をお届けできるのは嬉しいですね。
芝:とりあえずやってみる。聞いてみる。話してみる。一人で難しい時は仲間と一緒に。やった上で反応が良ければ続ける…など、とりあえずって大事だと思います。

嘉納雅:今後、イベントの性質も変わってくると思います。嘉納研究所は学会の仕事も多いけど、テレワークが進むと学会や大会議などでの音響オペレーションの仕事が無くなるんではないかと考えています。
芝:そうは言ってもゼロにはならないでしょう。それに、潤滑にテレビ会議ができるようにするという点で嘉納研究所の活躍の場はあるように思います。
嘉納雅:あと、音響・照明技術を活かした工事かな。人が居ない時にやっちゃえ的な。
芝:あとは民間のイベントに積極的に関わるとか。自治体のイベントはリスクを負わない=やらないという事も多いと思いますが、民間は自治体よりはゆるいですよね。
密を避ける・消毒など衛生面を徹底するなどの対策を行った上でやっていければ。
嘉納か:でも人が離れてるとイベント盛り上がらないよね。
嘉納雅:盛り上がりって大事だよね。離れてカンパーイってしてもね(笑)
ワクチンが出来るまで皆が安心してイベントに参加してくれないのかな。
芝:人によって様々ですが、密を避けながらお店に繰り出してお金を落としてくれている人もいます。こういう人も大事だし、私はまだ行かないという意見も尊重します。
要するにバランスだと思いますので、出てくれるって人だけ集めるでもいいのではと思います。
芝:リスク回避のために中止とするイベントも多いのですが、規模を小さくしても、手間が増えても、少しでも「開催」という選択を取っていただきたいですね。
嘉納雅:そう思います。中止という選択は簡単ですが、難しいと言えども開催してほしいですね。
芝:屋内で密になるのであれば屋外で、屋外で実施できるところがなければ仮設でステージを作る。その上で密にならない努力して開催できるといいですよね。
嘉納雅:やっぱり本業で稼げるのが一番だからね。スタッフはいつでも出動できるように準備して待っています。発表できる場がほしいという団体もたくさんいますので、小規模でもイベントを開催してもらいたいですね。
嘉納研究所のみなさん、今回は裏方スタッフについて色々お話しいただきありがとうございました。
ただ、裏方スタッフと言っても、嘉納研究所のような技術スタッフ、弊社のような運営スタッフや企画制作などを担当する広告代理店など多数の業種が共同でイベント運営を行っており、また同業でも会社規模の大小や「小屋付き」と呼ばれる会場専任スタッフなど様々です。
今後も様々な「裏方スタッフ」な方にお話を伺ってご報告いたします。
また、雅彦さんの別の顔でもある「音楽家活動」についての現状についても別途レポートいたします。
イベントナガノでは今後も様々なイベント業界の方々にお話を伺い、現状や問題点の共有・ご理解をいただき、イベントが再開されるまで、されてからのバックアップを進めて行きたいと考えております。
また、今回の嘉納研究所のみなさんを含めイベント関係者に別途質問させていただき、回答をイベントナガノ・レポートにて公開いたします。また、こういう業種の方の状況を知りたい・聞きたいというリクエストも受付しています。ご質問・リクエストはイベントナガノのお問い合わせフォームからお願いいたします